さあ、早くあのドアを抜けるのだ

Life

ここは暗くじめじめした場所だ。
私はここに30年居座っている。
早くここから出たいという気持ちを抑え込んで生きてきた。
ときにはなじられ、もうここまま生き続けるより、いっそ、
首でもくくったら。。なんて考えた時期もあった。
まさに地獄のような日々だった。
20年を超すとそれが当たり前になった。
つらくもなんともない。
おそらく麻痺してしまったのだろう。
上司に怒鳴りつけられても、同僚に踏みつけられても、
部下からなめた口をきかれても痛くもかゆくもなくなってしまった。
いいことか、悪いことかわからない。
ただそれが事実だ。

それがどうだろう。
今日、目覚めると目の前のドアが開いていた。
誰のしわざだろう。
神様のほんのちょっとしたいたずらだろうか。
ドアの向こうには大きな海が広がっている。
あのフェンスを超えて、あの海に飛び込んでみたい。
そんなに高さはないはずだ。
気持ちいいだろうなあ。
何もせず仰向けになって、ただ浮かんでいたい。
空をとぶカモメなんかがみえるだろうなあ。
運が良ければ、飛行機だって飛んでいるかもしれない。
飛行機雲がそのあとを追っかけているかもな。

さあ、はやくあのドアを抜けるのだ。
さあ、5歩もあれば、到達できるだろう。
なぜだ!
足が動かない。
おれの足はどうしちまったんだ?
さあ、早くまずは一歩前に踏みだすのだ。
なぜだ!
足がいうことを聞かない。
這ってでもいいから、とにかくあの場所まで。。。

もう演技するのはやめようぜ。
本当はわかっているんだろう。
お前は本当は変化が怖いんだ。
すべてが変わってしまうことがおそろしいんだ。
だから、お前はこの先100年かかっても、この場所から這い出ることはできない。
お前にはわかっているはずだ。
お前にはこの暗くてじめじめした場所が心地よくなっているのだろう。
だから、お前はあの輝くように明るくて、澄んだ海水が見渡す限り広がっている
あの場所へ行くこともできないんだろう。

おれの内なる声がそんな風に聞こえた。

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