わしはただこの世の中を見つめている

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わしはこの場所で世の中の移り変わりを見てきた。
いろんな人たちがわしの目の前を通り過ぎて行った。
明るく希望に満ち溢れたやつ。
下ばかり向いてぼそぼそと話す陰気くさいやつ。
虎のような御仁にくっついて能書きばかり並べるやつ。

そんな中でもあの男はひときわ輝いておった。
最初見たとき、あの男に光るものは見えんかった。
ただ、笑顔の明るいやつだと思っただけじゃった。
それはわしの見てきた男たちのどの部類にも属して
いなかったからだと、今ならわかる。

あの男はいつも笑っておった。
道端で油を売っているこのわしにも気軽に声をかけて
きたもんじゃよ。

「今日も元気かい。じいさん?」

今でもあの男がにっこり笑って、

わしにあいさつをしたときの顔を覚えておるよ。
こっちまで楽しくなるような笑顔じゃったな。
しばらくしてやつの姿をとんと見かけんようになった。
どこかの女に囲われでもしたかと思ったが、
やつが東京にいったと風のうわさで聞いた。
それを聞いた時、やつならそういうこともあるだろうと
思った。
やつの笑顔の奥にわしは何か光るようなものを
見た気がしていたからじゃ。
案の定、やつはとんとん拍子に出世していきよった。
やつの人懐っこい笑顔はほかの人間も引き付けたと
いうことじゃ。
ついにやつは大企業の社長におさまりよった。
アイテー?か何かの社長だったそうだ。ただ、そのあとのことをわしはあまり話とうない。
じゃが、乗りかかった船だ。
あんたもこんな中途半端じゃ気が済まんだろう。

アイテーがどういうもんかわしゃ知らんが、
会社にはいい時も悪い時もあるじゃろ。
やつにもそれはわかっておったはずじゃ。

じゃが、人間は弱いもの。
やつは犯罪に手を染めよった。
もっともそれはマスコミが言うとったことだから、
信用はできんが。。。
株の値段を裏で操作したとかなんとか聞いている。

もしかして、やつははめられたのかもな。
この嫉妬心、猜疑心にあふれた世の中じゃ、それも
考えられないことじゃなかろうて。

結局やつはあれよあれよという間に逮捕され、
刑務所に送られた。
やつの姿をみることはもうないじゃろうな。。

わしはこの場所でいろんな人間を見てきた。
いろんなやつがいろんな花火を打ち上げよった。
ただ一つ言えるのはどんなにきれいな花火でも
数秒で夜空に消えてしまうということじゃ。

いろんな花火。
いろんな人生。

わしはただこの世の中を見つめている。

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